負のパワー

人間は物語を必要とする生き物である。
そして物語は真実に基づくものではなく、すべてに誤り、偏見が混じるものでもある。

ごく普通に生活しているなかで、当たり前のように信じていた物語が、一瞬にして崩れ去る時がある。


先日、学連の連中と酒を飲んでいた。
その時、メルに
「最近どうよ、彼女できた?」
という英語でいうところの、「ハウアーユー?」あるいは商人の「もうかりまっか?」に相当する挨拶をした。

つまり、問と返答はワンペア、お約束であって、その後の会話への導入、アピタイザー、みたいな位置付けなのである。

しかし!
「できたよ」
と無粋にもお約束を突破してきた!

一瞬にして場は凍りつき、数秒後、その場にいた男数名全員が
「えぇぇえー!」
とうなだれながら、絶望と怒りの溜め息をもらした。
牙城が崩れたとはまさにこのことであり、当然のようにそこにあった山が一夜にして消え去った感覚。

「10.6メルショック」と名付けられ、二時間ほど、この話だけで飲み続けた。